「民主主義」という偶像崇拝

 「歴史の研究」に「産業主義が奴隷制度に与えた影響」 (2-464または/7-p215)という見出しがあり、さらに続いて「民主主義と産業主義が戦争に与えた影響」、「民主主義と産業主義が地方的主権に与えた影響」などの見出しがあります。(この部分の原書が発行されたのは1939年)

「過去二世紀間のうちに、産業主義と民主主義という、二つの新しい、動的な社会的力が活動しはじめたが、この二つの力の突き当たった古い制度の一つが、奴隷制度であった。」2-p464

この奴隷制度は放っておいても衰退に向かっていましたが、イギリスに起こった産業革命などによって、産業主義はこの奴隷制度の寿命を延ばす方向に働きました。

では民主主義は?・・・・産業主義とは反対方向に作用しました。
「もし産業主義の推進力が民主主義の推進力によって大部分打ち消されなかったとしたならば、西欧世界はあれほどたやすく、奴隷制度を取り除くことができなかったであろう」2-p466

では、戦争に対してはどうか?・・・・この場合、奴隷制度とは違って、二つの主義は同じ方向に作用して戦争を激化させました。

ところで、この新しい社会的力が出現する以前の戦争とはどのようなものだったのか?
・・・・奴隷制度と同じく、戦争も下り坂で、以前より穏やかなやり方で行われるようになっていたとのこと。
「産業主義と民主主義の出現前夜の西欧世界の状態を回顧するならば、十八世紀中葉に於て戦争は奴隷制度とほぼ同じ状態にあったことに気がつくであろう。すなわち戦争は明らかに衰えつつある古い社会悪であった。」/7-p222

一旦は宗教改革以後の宗教的熱狂によって駆り立てられ、激化しましたが、その後の合理主義、科学の発達等によって沈静化し、国王の「戦争ゲーム」のようなものに落ち着いてきました。
「18世紀にその前後の時代に比べて戦争の残虐さが少なかった根本の理由は、それが宗教的ファナティシズムの武器ではなくなり、しかもまだ民族主義的ファナティシズムの手段になっていなかったからである。」2-p469
*ファナティシズム・・・・熱狂、心酔、狂信

「十八世紀には戦争の害悪はその前にも後にも西欧社会の歴史の他のどの章に於ても近づいたことが決してない最小限にまで引き下げられたのであった。」/7-p223

この平和な「文明化した戦争」は18世紀末に終わり、民主主義と産業主義に駆り立てられて再び激化し始めました。
具体的にはフランス革命とその後のナポレオン戦争やアメリカ独立戦争など。
では二つの主義のうち、どちらがより大きな影響力を持っていたか?・・・・様々な技術の発展を考えると、産業主義のほうを挙げたくなりますが、実は民主主義とのこと。

「紀元1871年には戦争はもはや『国王の遊戯』ではなかったからである。それは民主主義が掻き立て得る一切の熱狂を吹き込まれ、そして産業主義が作り得る一切の武器で武装した、諸国民の真剣な仕事になっていた」/7-p235

なぜ・・・・「民主主義が反社会的な力として作用することが、先験的に、何ゆえに可能なのであろうか」? /7-p244

解答・・・・「われわれの西欧の民主主義は、戦争という制度と衝突する前に、政治的に多くの地方国家に分裂している社会に於て、地方主権という制度と衝突した。
そして民主主義と産業主義という新しい推力の地方国家という古い機械への導入は、政治的ナショナリズムと経済的ナショナリズムという二つの異常事態を生んだ。民主主義が戦争に反対する代わりに戦争に「推力」を注入したのは、民主主義の霊性的な精神が異質の媒体を通過した時に現れたこの低俗な派生的な形においてである。」/7-p245(1-p471)

「起源および本質に於て、民主主義は地方的ではなく普遍的であり、戦闘的ではなく人道的である。その本質は、生命それ自体の境界以外の境界を知らない友愛の精神である。・・・・(中略)・・・・そしてこの特質のお蔭で・・・・(中略)・・・・忠誠と献身と熱狂を掻き立てる力・・・・を行使するのである。」/7-p253

「民主主義のための自然な行動の場は、全人類を包含する場である。そしてその精神力が恩恵的であるのは、この範囲に於いてなのである。
しかしこの強力な精神的推力が地方国家という機構のなかへそらされるとき、それは恩恵的であることをやめるだけでなく、有害な破壊力になる。
『最良なるものの腐敗は最悪である。』地方国家のなかに閉じ込められた民主主義は、ナショナリズムに堕するのである。」/7-p254

「全人類に新しい生命をもたらすことを約束した湧き水は、政治的地方主義という古い水路に無理に入れられることによって、生命を与える泉から破壊的な奔流に変えられていたのであった。
独立宣言のなかの人権宣言をもって始まった運動は、単にもう一つの地方国家の樹立という結果を生んだにすぎなかった。そして広く人類に贈られるべきであった新しい民主主義の熱意がこの偶像に注がれたために、・・・・(中略)・・・・無慈悲なナショナリズムを生んだのである。」/7-p259

「合衆国の生誕に於てわれわれの前に立ち現われ、そしてそれ以来世界中の他の大部分の地方国家を捉えたこの政治的ナショナリズムは、多数の国家が存在することが支配的な政治体制になっている社会に対する民主主義の衝撃の結果である。」/7-p270

*ちなみにこの部分は、「文明の挫折」という大きなタイトルの中の「自己決定能力の喪失」の「柔軟性のない諸制度」となっていて、その最初の見出しは「古い皮袋に新しい葡萄酒」と書かれています。

当然ですが・・・・われわれのよく言う民主主義ってなんなんだ?・・・・と改めて思わされます。


コメント

このブログの人気の投稿

偶像崇拝

共産主義

参考文献、引用表記