世界国家は誰の為に

 「世界国家が意図せずして提供する奉仕はいかなるものか。」2-p347

「支配的少数者が少数者自身の生み出した状態から利益を得ることが比較的少ない・・・・(中略)・・・・これに反して、内的プロレタリアートがいかに有効に世界国家の平和的雰囲気を利用して、下から上へ高等宗教を広め、ついに世界教会をうち立てるようになることが多いかということは、注目すべきものがある。」2-p353

「ローマの平和の提供した機会は、いくつかの互いに争い合うプロレタリア宗教・・・・キュベレ崇拝とイシス崇拝、ミトラ教、およびキリスト教の利用する所となった。」2-p354

「しばしば世界国家の社会的・心理的風潮によって利益を受けてきた高等宗教の代表者たちは、ときおり、その恩恵を自覚し、それはかれらがその名のもとに教えを説いている「唯一のまことの神」のたまものと考える場合がある。
第二イザヤ書、エズラ書、およびネヘミア書の筆者の目から見れば、アカイメネス帝国はヤーウェの選んだユダヤ教弘布の手段であったし、レオ大教皇(在位440-61年)も同じようにローマ帝国を、キリスト教の普及を容易にするために神の摂理によって定められたものと考えた。」2-p354

「支配的少数者が創造し維持する世界国家によって、精神面においてもっとも大きな利益を受けるのは、高等宗教を創造する内的プロレタリアートであるが、政治面における利益は他の者の手に帰する。
・・・・(中略)・・・・
それは、国境の外から侵入してくる連中であって、これらの侵入者は解体する文明社会の外的プロレタリアートの構成員か、異文明を代表する者か、どちらかである。・・・・(中略)・・・・
(近視的に見ればまことにめざましく見える。けれども、すでに前に述べた通り、滅びゆく世界国家の遺棄された領土に侵入する蛮族侵略者は、未来を持たない英雄である。・・・・(中略)・・・・教会の成し遂げる歴史的事業にくらべれば、見掛け倒しであり、期待はずれに終わる。」2-p359

(iyo)以上がおよその結論となりますが、完訳版には「帝国の諸制度の効用」として、交通手段、守備隊と駐屯地、州、首都、公用語と公用文字、法律、暦法・度量衡・貨幣、常備軍、文官制度、市民権などについて、個別の調査がなされています。

以下に一部その例を挙げますと、

[交通手段]
(iyo 縮刷版では)
「世界国家の政府によって維持される道路は、明らかに、本来意図されていなかった種々さまざまの目的に利用することができた。
ローマ帝国の末期に領内に侵入してきた外的プロレタリアートの戦闘団体は、ローマ帝国が意図せずして彼らに絶好の進撃手段を提供しなかったとすれば、あんなに急速に略奪行為を押し広げてゆくことができなかったであろう。
しかし、アラリック(西ゴート族の最初の王(iyo))よりももっと興味のある人物が、路上に姿を現す。

アウグストゥスがピシディア(アナトリア南部の高地)にローマの平和を押し付けたとき、かれは知らずして、聖パウロが第一回伝道旅行のさい、パンピュリアに上陸し、ピシディアのアンティオケア、イコニウム、リュストラ、さらにデルベというふうに、無事に旅をするための準備をしていたのである。

またポンペイウスは海上から海賊を一掃したが、そのおかげパウロは、暴風や難破の試練のほかに人間の手によって加えられる危険をおかすことなく、パレスチナのカイサレアからイタリアのプテオリにいたる、かれの重大な最後の航海をすることができたのである。

ローマの平和はパウロの後継者たちにとっても、同じように都合のよい社会的環境となった。」2-p363
・・・・(中略)・・・・
「我々の概観は、交通組織がはじめに意図されなかった意外な利用者に利用される場合の、きわめて多いことを明らかにした。」2-p363

(iyo 完訳版では)
オロンテス河沿いのアンティオケアを聖パウロの精神的征服事業の作戦基地を考えるならば、・・・・(中略)・・・・パウロの業績がいかに永続的であり、いかに大きな成功であったかがわかるであろう。/14-p190

またこの世に於て彼がどのような最後をとげたにせよ、帝国の首都に於けるかれの存在と活動は、その地にヘレニック世界の他のいかなるキリスト教徒会衆よりも偉大な運命を担うことになる幼児期のキリスト教徒会衆の存続を確実にしたことは確かである。/14-p192

[駐屯部隊と植民地]
もっとも顕著な受益者は、明らかに、外的プロレタリアートである。
文明の軍事的前哨地点に於て・・・・最初は敵対者として、のちには傭兵として・・・・蛮族が受けた教育のおかげで、彼らは帝国が崩壊するさいに、崩れ落ちた障壁を乗り越えて一気に攻め入り、帝国の領土を切り取って後継国家を造る。
しかし「英雄時代」成し遂げられるこれらの事業が三日天下に過ぎないことは、前に述べたとおりである。
ローマ帝国ならびにアラブ帝国における組織的な住民の再配分と混合によって結局利益を得た者は、前者においてはキリスト教、後者においてはイスラム教であった。2-p375

ローマ帝国におけるキリスト教、カリフ国におけるイスラム教、シナ文明の世界国家における大乗仏教はいずれも、世俗的な帝国建設者が自己の目的を達成するために設けた駐屯部隊と植民地を利用した。
しかし計画的に行われた人口再配分のもたらした、以上の意図しなかった宗教的結果よりもさらに一層われわれの目を引くのは、ネブガドネザルの、アッシリア式の野蛮政策への復帰がもたらした結果である。
この新バビロニア帝国の武将は、ユダヤの民を捕虜として連れ去ることによって、単に既存の高等宗教の普及を助長しただけでなくて、事実上新たな宗教を成立させたからである。2-p379

[首都]
世界国家の中央政府所在地は、時の経過にともなって移動する傾向をはっきり示す。・・(中略)・・時がたつに連れて・・(中略)・・最初に帝国を建設した勢力の便宜からでなしに、帝国全体の便宜という見地から望ましい新しい地点を選ぶようになる。2-p385

世界国家の政府所在地は実際、精神的種子が落ちるのに適した土地である。2-p395

そのような首都は広大な世界の縮図であって、その城壁の内部には、いろいろな国語が話されているばかりでなく、あらゆる階級、あらゆる民族を代表する人間が住んでおり、その城門はあらゆる方向に通じる公道に向かって開かれている。2-p395

同じ伝道者が同じ日に、貧民窟と宮廷で説教をすることができる。
そして、皇帝に耳を傾けさせることに成功すれば、帝国の強大な行政機構を意のままに利用する望みが持てる。
ネヘミヤはスサの帝室の中で占めていた地位のおかげで(王の給仕)、エルサレムの神殿国家のためにアルタクセルクセス一世(ネヘミア記のアルタシャスタ王)の援助を仰ぐ機会を与えられた。2-p395


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