アブラハムからキリスト教への発展
1つの文明が誕生して消滅し、次の子文明が発生する間には、宗教が起こって2つの文明の仲立ちをしているように見える例があります(全てではない)
たとえば、ギリシャ・ローマ文明(ヘレニック文明)が滅んで、現代の西欧社会のもとになる文明(西欧文明)が出来上がりますが、その仲立ちをしたように見えるのが、キリスト教でした。
トインビーさんもこの現象を見て、はじめのうち、宗教は新しい文明発生のためにあって、蛹のような役割をするものと考えていたようです。
その後、本人自身が考えを変えたことを認めています。
「教会の役割と性質について多年このどちらかと言うと教会を見下した見方で満足していたことを告白しなければならない。」/15-p24
キリスト教の前後にある2つの文明を比較してみると「同種のもの」であるとのこと。
「出現したキリスト教時代以後の西欧社会が、キリスト教時代以前のヘレニック社会と同種類のものであるという点については、同意を表することができる」2-p457
しかし、キリスト教について調べてみると、キリスト教はモーセ、アブラハム、預言者、イエス様の時代を経過しながら成長しています。
「人間の精神的進歩の道の上に並んでいる、アブラハム、モーセ、預言者、およびキリストという名の記されている里程標はいずれも、世俗的文明の進路の調査者が、道路が破壊されている交通が途絶していると報告する箇所に立っている」2-p510(/15-p298)
・・・・この引用文だけでは分かりにくいので、コメントしますと、世俗文明が破局を迎えるようなときにこそ宗教はワンランク上がっているというのです。
「宗教の歴史は文明の歴史が多様であり、反復的であるのに対して、一様であり、前進的であるように思われる」/15-p80
そして、キリスト教とその他の高等宗教の間には、同時代の文明の間に見られるよりも緊密な親近性が認められ、親近性はキリスト教と大乗仏教との間に特に顕著とのこと。
「これら四つの高等宗教は、一つのテーマの四つの変奏曲であって、これらの天来の妙なる音楽の構成部分の四つ全部が同時に、しかも同じ明瞭さで人間の耳に聞こえたとすれば、それを聞いた幸せ者は、不協和音ではなく調和の音楽を聞いただろう。」としています。/15-p84
アブラハムの時代は、まだ宗教とは言えない段階かも知れませんが、モーセなどを経てユダヤ教、キリスト教へと発展してきています。
「キリスト教は、単にあいついで起こった世俗的破局を凌いで生き残ったというだけでなく、それらの破局から累加的なインスピレーションを得た精神的進歩の頂点」2-p467
信仰の父というとアブラハムなので、トインビーさんもアブラハムから始めているようです。
シュメル・アッカド帝国滅亡の精神的伴奏(/15-p298)
ヘブライの伝説では、うぬぼれた人間が神に反抗してバベルの塔を建てた後 (2-p511)
アブラハムは唯一の真の神から啓示と約束を受け、帝都ウルから脱出 (/15-p77)
エジプト「新帝国」の分裂の伴奏 (/15-p298)
精神的に不幸なエジプトの肉鍋の享楽から救出する運動 (2-p511)
カナンの地に入って以後の精神的後退の時期
イスラエルが南北朝に分裂し、北朝はアッシリアにより滅ぼされ、南朝はバビロン捕囚
ヘレニック文明の動乱時代(ローマ帝国による支配)
イスラエルとかわした契約を人類全体に広げるための神自信の介入(/15-p299)
神様自身が、大洪水によって暴虐で満ちた地上の人間を滅ぼした。
これによって、ノアは新しい天と地を見て再出発した。
そうだとすれば、世俗的歴史の上昇点は精神的歴史の下降点と一致するはずであり、したがって、世俗社会の衰微にともなう宗教的偉業は、精神的進歩であると同時に精神的回復でもあるはずである」2-p510
(ここでの上昇点、下降点は完訳版では高点、低点と約されています)
物質的に困難な環境が世俗的大事業の温床になる場合が多いとすれば、それから類推して、精神的に困難な環境は宗教的努力を促す刺激になるはずである。
精神的に困難な環境というのは、物質的繁栄のために魂の願望が窒息させられている状態である」2-p510
この状態を1つの乗り物と見て、車輪(文明)が回転することにより、乗り物(宗教)が前進すると考えています。
では、この乗り物は何を目指しているのか?
・・・・著者は第六篇「世界教会」の中で「高次の種の社会としての教会」という見方をしています・・・・平たく言えば、理想社会ということでしょう。
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